- 出産育児一時金の概要
- 従業員への情報提供、差額発生時のフォロー
- 退職後でも出産育児一時金を受け取れますか? など
難易度と必要性
法的に必要★★★ / 条件により必要★★☆ / 法的には不要だが会社には必要★☆☆
基礎知識
出産は従業員にとって人生の大きなイベントのひとつです。
現在、直接支払制度の普及により会社側の直接的な申請実務は減少しました。その一方で従業員から「個人の手続き」について相談を受ける機会は増えています。そのため、労務担当者は従業員からの問い合わせに迅速かつ正確に対応できるよう、制度の基本を改めて理解しておく必要があります。
今回は、全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)に加入しているときの出産育児一時金について説明します。
言葉の定義
出産育児一時金は、被保険者または被扶養者(以下、被保険者等)が妊娠4か月(85日)以上で出産した際(※)に支給されます。支給額は原則として1人につき50万円ですが、産科医療補償制度に未加入の医療機関での出産や妊娠22週未満の出産の場合は48.8万円となります(多胎児は人数分を支給)。
※早産、死産、流産、人工妊娠中絶(経済的理由によるものも含む)も支給対象として含まれます。
対象者
妊娠4か月(85日)以上で出産する健康保険の被保険者等
やること
産休・育休前の個別周知と面談での情報提供
2025年10月に施行された改正育児・介護休業法により、妊娠・出産の申し出をした従業員への個別周知・意向確認が義務化されました。従業員と面談をする際に、出産育児一時金の受取方法についてもあわせて案内するとスムーズです。
出産育児一時金の受け取り方は、「医療機関が直接・代理で受け取る方法」と「被保険者等が受け取る方法」があります。
1 医療機関が直接・代理で受け取る方法
【直接支払制度】
出産費用に出産育児一時金を充てられるよう、協会けんぽから医療機関等へ一時金を直接支払う仕組みです。この制度を利用することで、窓口での支払額は出産育児一時金が差し引かれた後の金額となるため、被保険者の経済的負担が軽減されます。手続きは、出産予定の医療機関等で「直接支払制度を利用する旨」の署名をし、提出するだけで完了します。

【受取代理制度】
出産育児一時金を、医療機関が本人に代わって健康保険から直接受け取る制度です。直接支払制度を導入していない厚生労働省へ届出済みの小規模の医療機関等で利用できます。
この制度を利用する場合、被保険者等は「出産育児一時金等支給申請書(受取代理用)」に必要事項(受取代理人となる医療機関等による記名・押印およびその他の必要事項の記載を含む)を協会けんぽへ提出します。なお、出産予定日前(2か月以内)に届出が必要です。

2 被保険者等が受け取る方法
出産後に被保険者本人が協会けんぽへ支給申請を行い、直接支給を受ける方法です。直接支払制度および受取代理制度に対応していない医療機関等での出産や、本人が受取を希望する場合に選択します。
こちらの方法を選択した場合、医療機関等の窓口で出産費用をいったん全額立て替えて支払う必要があります。なお、海外で出産された場合もこの方法での申請となります。
(直接支払制度を利用した場合)出産後の「差額発生」に対するフォローアップ
直接支払制度を利用し、出産費用が一時金の金額を下回った場合は、差額を受け取ることができます。出産の約3か月後に、協会けんぽから申請に必要な書類(出産育児一時金差額申請書)が自宅へ届くため、忘れずに申請手続きすることを伝える必要があります。
なお、差額支給を急ぐときは、協会けんぽの申請用紙を待たずに指定の届出様式に添付書類を添えて申請してください。
よくある質問
Q:出産育児一時金は、いつ支給されますか?
出産育児一時金は、協会けんぽに申請してから1~2か月程度で支給されます。
申請から支給までは時間がかかるため、まとまった出産費用を事前に用意することが難しい方は、協会けんぽから医療機関等に出産費用が支払われる直接支払制度を利用されることをおすすめします。
※協会けんぽ以外(健康保険組合など)は審査期間が異なるため、健康保険組合などに確認してください。
Q:退職後でも出産育児一時金を受け取れますか?
退職後でも、以下のすべての要件を満たしていれば、出産育児一時金を受け取ることができます。
①妊娠4か月(85日)以上の出産である
②退職日までに継続して1年以上協会けんぽ(任意継続被保険者期間は除く)に加入している
③退職日の翌日から6か月以内に出産している
医療機関に出産育児一時金を直接支払う直接支払制度を利用されるときは、協会けんぽが発行する「健康保険被保険者資格喪失等証明書」を医療機関へ提示していただく必要があります。
また、扶養していた配偶者の出産は、退職後は対象になりません。
Q:退職前は健康保険、退職後の現在は国民健康保険に加入しています。退職後6か月以内に出産をしたとき、健康保険と国民健康保険の両方から出産育児一時金を受け取ることはできますか?
出産育児一時金は同じ出産に対して1回のみの支給とされています。
ひとつの健康保険の保険者から支給されるものであるため、2か所の保険者からの支給はありません。
国民健康保険、協会けんぽ、健康保険組合など複数の健康保険の保険者で、出産育児一時金の支給要件に当てはまるときは、いずれかひとつを選択してください。
選択した健康保険の保険者で出産育児一時金の手続きを行います。
Q:出産育児一時金には税金はかかりますか?
出産育児一時金には税金がかかりません。全額非課税です。
健康保険法の規定により、課税されないこととなっています。
Q:海外で出産しましたが、協会けんぽの出産育児一時金の申請で必要となる医師の証明書が添付できません。どうしたらよいですか?
海外で出産し、協会けんぽの出産育児一時金を申請するときに、出産を担当した海外の医療機関等の医師・助産師の証明書が添付できない場合は以下の添付書類が必要です。
・出産したことを確認できる書類(戸籍謄(抄)本、戸籍記載事項証明書、出生届受理証明書 など)(※)
・海外の公的機関が発行する戸籍や住民登録に関する書類、および「医師・助産師の証明の添付が困難である理由」と「出産した医療機関名・担当医等」を記載した書面
※死産の場合は、死産証書(死胎検案書)のコピーなど
HRbaseからのアドバイス
出産育児一時金は、現在、医療機関への直接支払いが主流となっており、企業側の申請実務は減少しています。育児休業法に基づく「個別周知・意向確認」においても、本制度の案内は必須義務ではありません。
しかし、労務担当者は産前から復帰までを支える、従業員にとって最も身近な相談相手です。制度について助言を求められる機会も多いため、スムーズな両立支援が行えるよう、基本情報を正しく把握しておくことが重要です。

社会保険労務士。株式会社HRbase代表取締役/社会保険労務士法人HRbase代表。労務管理の課題をITで解決できる社会を目指す。HRbase Solutionsは三田をはじめとする社会保険労務士、人事労務の専門家、現場経験の豊富なプロと、記事編集者がチームを組み「正しい情報×徹底したわかりやすさ」にこだわって作り上げているQAサイトです。





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