- 出産育児一時金の概要や届出方法を知る
- 申請書の入手方法、届出など一連の流れ
- 延長の届出を忘れたときどうすればいいかなど
基礎知識
従業員と企業のどちらでもできる手続きですが、出産期の従業員が正しく取得できるよう、企業のサポートがあることが理想です。
言葉の定義
出産育児一時金は、健康保険の加入者または扶養者が出産をしたときに、出産費用の負担を軽減するために支給されるものです。金額は、子ども1人あたり42万円で、双子以上のときは子どもの人数分支払われます。ただし、産科医療補償制度に加入していない医療機関で出産をしたときの金額は40.4万円です。
出産育児一時金は、企業を通さずに出産した本人から直接、加入している健康保険へ請求できます。今回は、企業が従業員に代わりに協会けんぽへ請求する手続きの流れを記載しています。
なぜ必要?
出産はケガや病気ではないため、出産にかかる医療費には健康保険が使えません。つまり、出産にかかる費用は本人が全額負担することになります。この出産費用の負担を軽減する目的で、出産育児一時金が健康保険から支払われます。
対象企業
健康保険に加入している企業
対象者
健康保険に加入している従業員または扶養されている配偶者
実施期間
従業員または従業員の配偶者が出産したとき
メリット
出産育児一時金について正しく理解し、社内で適切に申請する流れをととのえておくことで、出産する従業員が安心して育児生活を開始できます。
デメリット
出産育児一時金の手続きを怠ると一時金が支払われなくなるため、産後の育児生活に支障をきたす可能性があります。
やること
従業員から出産の連絡を受ける
出産育児一時金は、妊娠85日以上の方が出産(流産・死産・人工中絶含む)したときに支給されるものです。
母子手帳のコピーなど、子どもが生まれたことがわかる書類を提出してもらい、従業員から出産の連絡を受けます。この出産の確認がとれる書類は、ハローワークから支給される育児休業給付金の手続きなどでも必要になります。
出産育児一時金の手続きが必要か従業員に確認を行う
出産育児一時金の請求には次の方法があります。
①本人に代わって企業が直接、協会けんぽへ全額を請求する。
②直接支払制度を利用する。
本人が受け取るはずの出産育児一時金を協会けんぽが医療機関に直接支払う制度です。医療機関から本人に提示される直接支払制度の利用に合意する内容の書面を、本人が医療機関に提出することで制度を利用できます。
③受取代理制度を利用する。
本人が受け取るはずの出産育児一時金を、本人に代わって医療機関が協会けんぽに請求し医療機関が直接給付を受け取ります。利用するときは「出産育児一時金支給申請書(受取代理用)」を出産予定日前(2か月以内)に届出が必要です。
添付書類:なし
届出先:協会けんぽ
届出方法:郵送
①のときは、手続きの準備を進めます。
出産育児一時金の書類を準備する
協会けんぽのサイトから「健康保険出産育児一時金支給申請書」の書類をダウンロードし、従業員へ渡します。このとき医師・助産師などからの証明が必要になるため、従業員から書類を医療機関に持参して記入してもらいます。
手続きを行う
「健康保険出産育児一時金支給申請書」を従業員から提出してもらったら、その書類を協会けんぽへ届出をします。
添付書類:なし
届出先:協会けんぽ
届出方法:郵送(企業控が必要なときは、コピー1部と切手を貼った返信用封筒を同封しておきます)
よくある質問
Q:出産育児一時金はいつ支給されますか?
出産育児一時金は、書類を協会けんぽに提出後1~2か月ぐらいで支給されます。
申請から支給まで時間がかかるので、まとまった出産費用を事前に用意するのが難しい方は、直接、医療機関などに出産育児一時金を支払う直接支払制度を利用するとよいでしょう。
Q:直接支払制度を利用して出産しましたが、かかった費用が42万円未満の金額でした。差額は請求できますか?
請求できます。
差額の請求方法は2種類あり、協会けんぽから「出産育児一時金等支給決定通知書」が届いているかどうかで異なります。「出産育児一時金等支給決定通知書」は出産後、おおよそ3か月ぐらいで本人に届きます。
①「出産育児一時金等支給決定通知書」が届いているとき
医師の証明や添付書類は必要ありません。
②届いていないとき
書類に医師の証明や添付書類などが必要になるため、従業員本人が医療機関などに書類を持参して証明をもらいます。添付書類は、出産費用の領収書や明細書、直接支払制度に係る代理契約書のコピーなどです。状況によって添付書類は異なりますので協会けんぽに事前に問い合わすか、協会けんぽのサイトで確認をし手続きを進めてください。
問い合わせ先:協会けんぽ
届出先:協会けんぽ
届出方法:郵送(企業控が必要なときは、コピー1部と切手を貼った返信用封筒を同封しておきます)
Q:退職後でも出産育児一時金を受け取ることができますか?
できます。
ただし、以下のすべてを満たしているときに限ります。
・退職日までに継続して1年以上協会けんぽ(任意継続被保険者期間は除く)に加入している
・退職日の翌日から6か月以内に出産している
退職後に支給される出産育児一時金は、扶養されていた配偶者の出産は対象にならないため注意しましょう。
Q:退職前は健康保険、退職後の現在は国民健康保険にそれぞれ加入しています。退職後6か月以内に出産をしたとき、健康保険、国民健康保険の両方から出産育児一時金を受け取ることはできますか?
できません。
出産育児一時金は1つの健康保険から支給されるもので、2か所から支給されません。複数の健康保険の支給要件に当てはまるときは、どちらか一方を選択して手続きを行いましょう。
Q:出産育児一時金には、税金はかかりますか?
かかりません。
出産育児一時金は全額非課税となります。
Q:出産育児一時金は、協会けんぽの窓口で現金支給してもらえますか?
してもらえません。
出産育児一時金は銀行振込みです。
難易度と必要性
法的に必要★★★ / 条件により必要★★☆ / 法的には不要だが会社には必要★☆☆
HRbaseからのアドバイス
従業員の出産に関する費用負担の軽減や、医療機関への出産費用の未払い防止のために、出産育児一時金の直接支払制度の利用が増えています。直接支払制度を利用するときは、出産費用が出産育児一時金の額を下回っていたことに従業員も企業も気付いていないケースが多く、手続きが漏れやすいです。制度を利用した従業員に対して、制度の概要や差額が発生したときの請求について丁寧に説明しておきましょう。
社会保険労務士。株式会社Flucle代表取締役/社会保険労務士法人HRbase代表。労務管理の課題をITで解決できる社会を目指す。HRbase Solutionsは三田をはじめとする社会保険労務士、人事労務の専門家、現場経験の豊富なプロと、記事編集者がチームを組み「正しい情報×徹底したわかりやすさ」にこだわって作り上げているQAサイトです。