- 随時改定(月額変更)の必要性と手続きの流れを知る
- 随時改定(月額変更)の条件を知り、手続きを行う
- 所定労働時間の変更。時間給の変更はなくても随時改定は必要?など
基礎知識
社会保険料は従業員と企業が折半して支払います。原則年1回見直しが行われますが、賃金が変動したときは、随時改定により相応の社会保険料に変更する必要があります。
言葉の定義
随時改定とは、毎月支給される賃金のうち支給額が決まっている手当など(基本給、役職手当、通勤手当など)に変更があったときに、社会保険料の見直しをする制度です。月額変更(略称:月変)とも呼ばれます。ここでは、特定適用事業所以外で協会けんぽに加入している企業のケースを記載しています。
なぜ必要?
社会保険料は、賃金に応じて負担額が定められています。そのため、毎年4、5、6月の賃金での定期的な見直しがされます。定期的な見直しの時期以外にも、昇給などで賃金に変更があったときは、賃金の額に応じて社会保険料を公平に負担するために随時改定(月額変更)を行います。
リスク
随時改定(月額変更)をしなかったり、虚偽の届出をしたときは、法令等で「6か月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」に課せられる可能性があります。
対象企業
社会保険に加入しているすべての会社
対象者
社会保険に加入している役員・従業員
実施期間
賃金の変更があったとき
デメリット
随時改定を正しく行わず、年金事務所への届出などが漏れていると、調査のときに届出のやり直しや訂正を求められます。その結果、社会保険料の不足分を遡って徴収されることもあり、企業と従業員の信頼関係に影響がでます。
やること
前月と当月の賃金に変更があるかを確認する
毎月決まって支給している賃金(固定的賃金)に変更があるか確認します。
変更した賃金を支給後、3か月経過したら標準報酬月額を確認をする
ステップ1で変更のあった従業員の賃金を4か月目に確認をします。確認する期間は、変更があった賃金が支払われた月から3か月間です。
3か月の賃金の総額(社会保険料、税金などの控除前)の1か月の平均額を計算し、標準報酬月額を出します。賃金の変更前と変更後で2等級以上差があったときは、賃金の変更後、賃金を支給された月の4か月目から社会保険料が変更になります。
【例】
賃金の締め日:末日
賃金の支払日:翌月15日
①賃金を変更した日:5月1日
②①の賃金を支給した日:6月15日
賃金を変更した月から3か月経過後の月:9月
9月に標準報酬月額を確認します。
賃金の算定となった日(出勤日、年次有給休暇など)が各月17日以上あるときに限ります。
【例】
賃金の締め日:末日
賃金の支払日:翌月15日
賃金の形態:月給
雇用形態:正社員
賃金の算定となった日
5月1日~5月31日:31日(賃金の支給日:6月15日)
6月1日~6月30日:30日(賃金の支給日:7月15日)
7月1日~7月31日:16日(欠勤6日控除あり)(賃金の支給日:8月15日)
7月の賃金の算定となった日が16日のため、標準報酬月額が2等級変更があっても社会保険料の変更はありません。
書類を作成し、届出をする
ステップ2で社会保険料の変更を届出する「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届」を作成します。作成後、届出を行います。
固定的賃金(基本給、諸手当など)と残業代や深夜割増賃金など支給されているすべての賃金合計(社会保険料、税金などの控除前)の賃金を記載してください。※出張手当、大入り袋、年3回までの賞与などは含みません。
添付書類:なし
届出先:事務センターまたは管轄の年金事務所
届出方法:郵送または管轄の年金事務所へ持参(事務センターのときは郵送のみ)
企業に年金事務所から通知書が届く
年金事務所から「健康保険・厚生年金保険資格取得確認および標準報酬決定通書」が届出後1~2週間で企業に届くので、企業で保管します。
賃金から新しい社会保険料を控除する
ステップ4の決定通知書の標準報酬月額を確認し、新しい社会保険料を控除します。そして社会保険料の等級が変更になったことを給与明細書と一緒に従業員へ通知します。通知は給与明細書の備考欄に追記するなどの方法があります。
よくある質問
Q:所定労働時間が変更になりました。時間給は変更ありませんが随時改定は必要ですか?
必要です。
時間給の変更がなく、所定労働時間が変更になったときは固定的賃金の変更に該当するため随時改定の対象になります。
【例】
◯変更前
時間給:1000円/時間
1日の所定労働時間:6時間
1か月の所定労働日数:20日
◯変更後
時間給:1000円/時間
1日の所定労働時間:7時間
1か月の所定労働日数:20日
1日の所定労働時間が変更になっているため、随時改定の対象になります。なお、1日の所定労働時間に変更がなく、1日の所定労働日数に変更があったときも、随時改定の対象になります。
Q:昇給して基本給が上がりましたが、残業時間が減少したため標準報酬月額が2等級下がります。随時改定の対象になりますか?
なりません。
随時改定が必要になるのは、固定的賃金が昇給し、標準報酬月額が2等級上がったときです。昇給したにもかかわらず標準報酬月額が下がったときは随時改定の対象になりません。
逆も同じです。固定的賃金が下がり、標準報酬月額が2等級上がったとき(残業が多いなど)は、随時改定の対象になりません。
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難易度と必要性
法的に必要★★★ / 条件により必要★★☆ / 法的には不要だが会社には必要★☆☆
HRbaseからのアドバイス
賃金に変更があった後、社会保険料がすぐに変更になるわけではないので「随時改定(月額変更)」の届出は漏れやすいです。また、どういったときに社会保険料が変更になるか知識も必要です。賃金の変更があった従業員の管理を徹底し、いつ標準報酬月額の確認が必要か、一覧表などにまとめくとよいでしょう。届出が漏れてしまうと、従業員の将来の年金などに影響がでます。従業員が安心して働けるよう届出は正しく行いましょう。
社会保険労務士。株式会社Flucle代表取締役/社会保険労務士法人HRbase代表。労務管理の課題をITで解決できる社会を目指す。HRbase Solutionsは三田をはじめとする社会保険労務士、人事労務の専門家、現場経験の豊富なプロと、記事編集者がチームを組み「正しい情報×徹底したわかりやすさ」にこだわって作り上げているQAサイトです。