- 固定残業代の制度について知る
- 固定残業代の制度を導入する流れと、注意点を理解する
- 固定残業代の支給時に、残業代を別途支払う必要はあるかなど
基礎知識
固定残業と、通常の残業の関係性を知り、正しく制度を導入します。未払いやコストアップを避け、企業にも従業員にもメリットのある運用を目指します。
言葉の定義
固定残業代制度とは、残業の有無にかかわらず一定時間分の残業代を毎月定額で支払う制度です。
定額の固定残業代より上回る残業があれば、上回った分の残業代を別途支給する必要があります。固定残業代を支払っているから、何時間でも残業をさせてもいいという制度ではありません。また固定残業時間よりも、実際の時間が少ないときも、支給額は減らせません。
リスク
適切に運用しないと、固定残業代を支払っていても無効となり、残業代が支払われていないと判断される可能性があります。無効となったときは固定残業代が時間単価の計算に含まれ、残業代を再計算しての支払いが発生すればかなりの出費になってしまいます。
残業代の支払いが不足していたときは、3年分(2020年3月までの賃金は2年分)まで遡って請求される可能性があります。
対象企業
残業が発生しているすべての企業
対象者
残業をしているすべての従業員
実施期間
随時
メリット
残業のあるなしに関わらず支給するため、給与計算の手間が減り、労務管理業務の効率化につながります。従業員にとっては不公平感がなくなり、残業が少なくても安定した収入が見込めるというメリットもあります。また求人での給与の見栄えもよくなります。
デメリット
固定残業代の部分が多いと、残業が当たり前にある、残業をしないといけない企業だと捉えられます。残業がなくても支給することにもなるため、人件費が上がる可能性があります。
やること
固定残業代の制度を検討する
まずは毎月どのくらい残業時間が発生しているかを確認します。その上で、固定残業代に何時間分の残業代を含めるかを決めます。全員が同じ時間数にするか、個別で時間数を設定するかなどは自由に決められます。
固定残業代に含まれる残業時間数は、36協定書の上限45時間(1年単位の変形労働時間制であれば42時間))までにしておくことをおすすめします。
従業員に説明をする
固定残業代制度を導入する理由や、固定残業代を上回った残業があるときは、超過分の残業代は支給されることなどを周知します。
従業員の同意を取る
固定残業代制度の導入は、労働条件の変更に当たります。給与にかかわるため従業員の同意を取り、雇用契約書を締結し直します。同意書(任意書式)も取っておくことをおすすめします。
個別の雇用契約書では「〇時間分の残業に対する手当として、〇円を支払うものとする」など、時間と金額を明確に記載しておきましょう。
就業規則に記載する
固定残業代制度は賃金に関する内容のため、就業規則への記載が必要です。固定残業代は残業代であること、固定残業代を超えた分は支給するなど、明確に記載をしておいてください。従業員が10名以上いるときは、管轄の労働基準監督所への届出も必要です。
従業員に周知する
従業員に、制度について周知をします。掲示やメールなどで全従業員に伝わる方法を取ってください。
給与システムに固定残業代の項目を追加する
給与の項目に固定残業代を追記し、給与明細書にも記載されているか確認をしましょう。
固定残業代を支払ったとしても、残業時間の管理は必要です。通常の残業代と固定残業代を明確に分けておけるよう、社内で管理方法をルール化しておきます。
よくある質問
Q:固定残業代に含まれる残業時間は何時間くらいまでが適切ですか?
適切な時間は法律的には決まっていません。目安として20〜30時間の企業が多いと思われます。多くても、36協定書の1か月の上限(45時間。1年単位の変形労働時間制のときは42時間)までに留めることをおすすめします。
「90時間を含む」など、極端に固定残業手当に含まれる残業時間数が多ければ、裁判で36協定書の上限時間までしか残業時間が認められなかったケースもあります。
Q:もし、残業代に未払いがあったらどうすればいいですか?
次の賃金で未払い分を支給してください。残業代の時効は3年です。あとからまとめて従業員から請求されるなどのトラブルも頻発していますので、気付いたときに早めに対応をしておくとよいでしょう。
Q:年棒制なので残業代の支給はありません。気を付けることはありますか?
年棒制であっても、残業をすれば残業代の支払いが必要です。残業代を含んで年俸を決めているのであれば、基本給と固定残業代を分けて管理しておく必要がありますので、気を付けてください。どのくらい残業代を含めるかは、企業と従業員との話し合いで決めることをおすすめします。
Q:基本給を残業代込みにしていますが、これは固定残業代制度になりますか?
なりません。基本給と残業代は分けておく必要があります。基本給と残業代の切り分けが不明確だと、裁判で「残業代は支払われていない」と判断される可能性が高くなり、労働トラブルの原因にもなります。
難易度と必要性
法的に必要★★★ / 条件により必要★★☆ / 法的には不要だが会社には必要★☆☆
HRbaseからのアドバイス
固定残業代を気にしすぎて、最低賃金を下回ってしまうケースが見受けられます。しかしあまりにも細かく管理をし始めると、固定残業代制度のよいところが失われてしまいます。「残業を何時間でもさせてもいい」という制度ではないことを念頭に置き、企業と従業員の双方がメリットを享受できるように、正しく柔軟に管理してください。
社会保険労務士。株式会社Flucle代表取締役/社会保険労務士法人HRbase代表。労務管理の課題をITで解決できる社会を目指す。HRbase Solutionsは三田をはじめとする社会保険労務士、人事労務の専門家、現場経験の豊富なプロと、記事編集者がチームを組み「正しい情報×徹底したわかりやすさ」にこだわって作り上げているQAサイトです。